スウェーデン語の辞書に女性、男性を区別しない代名詞「hen」が加えられたのは2012年のこと。それまでは男性を指す「han」、女性を指す「hon」の2つだったようですが、この「hen」が加えられたことで、現在スウェーデン語の話者の多くが、例えば性別のはっきりしない棒人間のイラストに対して「hen」と使うようになったのだとか。

    日本語では、男性を「彼」、女性を「彼女」という代名詞に置き換えますが、スウェーデン語の「hen」ようなノンバイナリーな代名詞は、今のところまだありません。英語もそうですね。個人単体を指す場合、「she」か「he」のどちらかです。

    LGBT総合研究所の調査によると、2019年時点で、性自認のマイノリティーの割合は6.1%で、これは学校のクラス内に1~2人は在籍しているという割合になります。もしかしたら、それ以上かもしれません。

    日本語の「くん」と「さん」については、特に未成年に対して用いる場合、日本語話者の多くは、慣習的に男女で区分けして用いていますね。ただ、これは今となっては、ある種の『因習』といっても良いのかもしれません。担任の先生が、「男の子」に対して「くん」、「女の子」に対して「さん」と使い分けている場合、性自認のマイノリティーに属するお子さんはそれをどのように受け止めるでしょうか。それは想像に難くないと思います。

    しかし、それを想像してもなお、言葉の問題が立ちふさがります。少年期の子どもたちを、敬意を込めて呼ぶとき、どんな敬称がふさわしいのか。「くん」「さん」に含意されている因習的なニュアンスは、まだまだ拭い去れないものがあります。性自認のマイノリティーは一見すると見分けが付き難いので、何も考えずに「くん」「さん」を使っていると、知らないうちにその子のアイデンティティを踏みつけている可能性があります。

    言葉は人類が生みだした最も古いテクノロジーの1つです。価値観がテクノロジーの後追いで変容していくとするなら、この課題についても言葉というテクノロジーを進化させていくことで対処できるのではないかと思っています。

    性的マイノリティーの存在がようやく認知されるようになった現代、日本語はもうそろそろ1ステップ進んで、そのような多様性を包み込む言語へと進化してもいいんじゃないでしょうか。