音の魔術
Free-PhotosによるPixabayからの画像
教室長の井口です。
私が気になっているライターさんの1人に佐久間裕美子さんという方がいます。佐久間さんはライターと名乗られる以前、「ジャーナリスト」として活躍されていた方で、彼女がそれまでに様々な場所に足を運んで得たであろう知見は、日本で普通に暮らすだけでは到底知り得ないものばかりで、とても興味深く彼女の上梓した書物を読んでいます。
先日、その佐久間さんのInstagramにアーカイブされたトークライブ動画の1つを視聴しました。それぞれの自宅からオンライン越しに対談するというもので、私が見た動画は、佐久間さんと坂口修一郎さんという方との対談でした。坂口修一郎さんは、『GOOD NEIGHBORS JAMBOREE』という野外イベントを主宰している方で、そのお話もとても面白かったのですが、そのなかで「PA」のお話が出てきました。
「PA」とは、音楽ライブなどの際に用いられる音響機器全般のことです。これによって私たちはステージから離れた場所に立っていても、アーティストの音楽を聞くことができます。日本だとフジロックという音楽フェスが最も有名ですが、ああいった広い野外音楽イベントではPAは欠かせないものです。
PAは「Public Adress」の略です。坂口さんが話すところによると、Adressとはここでは『演説』という意味で使われていて、実は近代以降PAが発達したのは、ナチス・ドイツにおけるヒトラーの演説がきっかけだったのだそうです。
アドルフ・ヒトラーは行政力も軍事的指導力も持ち合わせていなかったようですが、極めて『演出力』に長けた人物だったそうです。特に演説においては、緻密に組み立てられたプロット、計算された声の抑揚とリズム・韻踏みで当時の弱りきった民衆の心を掴み、熱狂的な支持者を数多く得ていました。
こうして見ると、ヒトラーが人々を魅了し虜にする過程はアーティストが演奏する音楽のそれと同じに思えます。そして、ヒトラーは国民の支持を受けて、第二次世界大戦を引き起こし、ユダヤ人を中心に大量虐殺を行ったのでした。「音が人に届く」ということの極端な結果だったと言えます。
私たちが普段楽しんで聞いている音楽というのは、そう考えると実は強烈な政治的効果を生む可能性を秘めています。どこかの首相がそれを期待して音楽を政治利用しようとしていましたが、幸か不幸か、ヒトラーほどの演出力を持っていなかったために極めて拙いものになって、ただブーイングにあっただけで終わりました。危ない危ない…